2004年12月 理事長見解:発達障害に対する実験的治療への警告

近年、発達障害に関するさまざまな新しい治療的試みが、報告さております。
本学会では、様々な治療方法について日々学術的な検討を積み重ねておりますが、有効と宣伝される試みの中には効果のない方法や危険性を含む方法も少なからず存在しているのが現状です。とりわけ最近注目されている2つの治療方法について、その倫理的妥当性を検討してきた倫理検討委員会をはじめ学会内外の各方面から、強い疑義が提起されております。今回、理事会において慎重に審議した結果、ここに公表するように各方面に注意を喚起する必要性が高いと判断した次第です。
問題と考えられるのは、三角頭蓋に対する手術的方法とキレーション治療の二つです。
前者は、形成を目的とした手術的治療が発達障害児にも有効な可能性があるのではないかとする一部研究者を中心に一部の病院で実施されております。しかし、本学会倫理検討委員会の調査においては、倫理的妥当性・臨床的有効性のいずれにおいても学術的に説得力ある論拠を確認することができませんでした。更に、内外の文献調査などを通じて、研究上も手術を実施するに充分な基礎的仮説を見出すことは困難と判断しました。以上から、現時点においては、この治療方法が実験的段階の域を出ていないと考えます。後者についてもほぼ同様で、学術的根拠に乏しく、臨床的には無効と判断されます。
手術や薬剤は、身体的な侵襲・副作用はもちろんのこと、精神的にも幾多の問題を与える可能性があります。上記のような治療法を採択する医師や研究者は、それが人体実験とならぬよう、充分な理論的検討と完全な倫理的承認のもとに実施する義務があります。また、保護者は、上記の事情に鑑み安全性・有効性のみならず危険性・限界性にたいしても充分に説明を受け、完全に事態を了解した上で、治療を選択してください。
以上、日本児童青年期精神医学会理事会は、緊急に危険な治療への警鐘を鳴らしたいと考えます。

2004年12月