代表理事挨拶

 日本児童青年精神医学会は1960年の設立以来、60年以上の歴史を持ちます。会員数も4,500名を超え、児童青年精神医学のその近接領域における基幹学会として発展して参りました。そこには医療のみならず療育、心理、福祉、教育、リハビリテーションなど、さまざまな支援を通して子どもの心と向き合う実践家や、研究を通して子どもが直面する心の問題を理解し、解決してきた研究者の絶え間ない努力の積み重ねのもとに今日の到達点があると考えています。
 近年には、いくつかの大きな課題と学会に求められる役割の変化があったと思います。
 第一に、児童青年精神医学のサペシャルティの確立です。法人化により学会としての基盤を強固にするとともに、日本精神神経学会との連携や、児童青年精神医学にかかる4学会(日本児童青年精神医学会、日本思春期青年期精神医学会、日本小児心身医学会、日本小児精神神経学会)の協働のもと、一般社団法人子どものこころ専門医機構を設立しました。カリキュラムの作成、専門医・指導医、研修施設の認定を経て、研修の受け入れがスタートしています。しかしながら、児童青年期精神医学の臨床を真摯に行っている医療者が国民から信頼され、国民は安心して医療を受けられ、医療者も誇りをもって医療を行えることを明示するための日本専門医機構の認定は、まだ実現しておりません。先人の努力を着実に結実させ、サブスペシャルティとしての確立を堅固なものとする必要があると考えています。
 第二に国際化が推し進められてきました。本学会は、国際学会連絡・国際交流基金運営委員会をもうけ、国際児童青年精神医学会IACAPAPやアジア児童青年精神医学会ASCAPAPとの緊密な連携を促進して参りました。2023年5月にはASCAPAPを日本で開催することになりましたが、本学会が国内のみならずアジア地域においても主導的な役割を担うことへの期待は大きいものと考えています。海外との人的交流もさらに拡大しつつあります。国内の子どもたちの心の健康に責任を持つことは当然のこと、国際的に日本が果たすべき役割を発揮し、世界の子どもたちがその国や地域に応じた支えを得られるよう、国際協働を進めることも今後の大きな目標となりましょう。
 第三に研究へのコミットメントです。学会は、臨床実践を支えるのみならず学会誌や総会において研究発表の場を設け、活発な討議を行うとともに、臨床疑問を研究へと展開するスキルの獲得や研究に関連する倫理にかかる情報提供や環境整備、利益相反の管理などを提実現して参りました。また、多様な学会奨励賞を設け、若手の研究や国際学会での発表の推進、卓越した臨床実践の顕彰を進めてきました。しかし、昨今では厚生労働科学研究や日本医療研究開発機構(AMED)研究においても、学会自身が研究にコミットし支えることを求めています。これは新たな学会の役割であり、研究の行方に学会として責任ある明確なビジョンを持つことが求められます。これまでの研究への姿勢をより洗練し、研究を支えるための一層の体制作りが求められます。
 第四に臨床の知に寄与する学会であり続けることです。冒頭にも述べましたように、子どもの支援は多様な専門家によって重層的に行われ、その協働こそが大切です。それぞれの専門家は、異なる人生や治療の経験のもとに真摯に臨床に取り組んでいますが、その互いの知を共有し、さらに重ねああわせ、臨床技能を高めることのできる場は、極めて貴重です。本学会では総会においてさまざまな臨床的テーマについてシンポジウム、教育講演、一般演題で討議するだけではなく、症例検討の場を設けている数少ない学会です。精緻な臨床は、真摯な臨床的姿勢と倫理観によって支えられます。私どもは、包括的なエビデンスで語り尽くせない個に即した臨床の重要性を深く認識しています。
 第五に多様性です。本学会は、多様な職種の学びあい、ともに討議できることが特色です。また、ジェンダーにおいても学会員の男女比は1対1です。しかし、学会役員の構成はそうなっておりません。少なくとも委員構成についてはこの点を考慮していくことが大切であると思っています。多様な声に耳を傾け、そこに生まれる英知を臨床に還元することが、子どもの臨床には大切であると考えます。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、まだ完全には終息しておらず、第8波の到来が懸念されています。ウィズ・コロナ、ポスト・コロナに向けて社会は動き始めています。しかし、新型コロナウイルス感染症はあまねく私たちを直撃したものの、そこで浮き彫りになったのは、レジリアンスの低い子どもや支援を要する家庭が抱える苦悩が増大している現実でありましょう。ウィズ・コロナ、ポスト・コロナといってもそこについていけない子どもや家庭があります。そのような子どもたちが取り残されることがないよう、あらゆる子どもたちの視点に立ち、支えを提供するとともに必要な発信を行っていくことこそが私たちの社会的使命です。そのためには、すべての学会員にお力添えをいただくことが不可欠でありますし、当事者や社会の声にも開かれた学会でありたいと考えております。

一般社団法人日本児童青年精神医学会代表理事
岡田 俊