総会における倫理的配慮に関する指針

倫理的配慮への指針

 参加者・発表者の皆さまへ

平成23年5月 作成
平成24年4月 改訂
平成27年4月 改訂
平成28年3月 改訂
令和4年2月 改訂

総会における倫理的配慮に関する指針

一般社団法人日本児童青年精神医学会 倫理委員会  

はじめに
 第49回広島総会で倫理要綱が採択され、その後、それに基づき学会の演題発表について倫理的配慮を会員に求めて参りました。年々、会員のこうした課題についての意識は向上しておりますが、第61回神戸総会、第62回長崎総会はオンライン開催となり、ますます総会における倫理的配慮が重要となっております。すなわち、発表演題の流出を完全に防ぐことは困難で不特定多数の人が視聴する可能性もあります。抄録や演題発表に関しては本指針に示す倫理的配慮に十分ご留意下さい。
 本学会は医師のみではなく、教育・司法・福祉などさまざまな職種から構成されており、研究種別の分類方法や倫理的配慮についての捉え方が、職種や所属する機関によって若干異なっています。本学会としては、一定の基準に基づき倫理上の共通認識を形成していく必要があると考えており、この「総会における倫理的配慮に関する指針」を策定しております。総会に参加される会員は、この指針に沿っていただくようお願いします。
 なお、この指針は学会員、総会事務局、プログラム委員会などから意見をいただきながら、倫理委員会で検討し、時宜にかなったものに改訂して参ります。

(抄録や演題発表に関する配慮)
・症例報告は、本人や代諾者 の同意を得る必要性があり、匿名性への配慮を十分に行った上で発表すると ともに、抄録への症例記載は個人情報に十分配慮して下さい。
・創作事例であっても、第3者から特定の症例が推測できる場合があります。その場合、創作事例とはいえませんので、本人や代諾者の同意を得る必要があります。
・介入研究や疫学研究は所属機関の倫理審査委員会の承認が必要です。当該倫理審査委員会が承認した事項に従って研究を実施して下さい。また、観察研究など症例報告に関しても、できるだけ倫理審査委員会の承認を得て、発表方法(匿名性の保持、個人情報流出防止など)等についても審査を受けて下さい。
・倫理審査を受審している場合にはその旨を抄録に記載して下さい。なお、所属機関の倫理審査委員会の承認を得た研究であっても、その内容によっては承認申請書あるいは承認番号などの提出を求めることがあります。
・未承認(適用外)薬剤や禁忌薬剤の使用に際しての報告には、本人、代諾者に対する「説明と同意」について記載が必要です。
・抄録の中には、その内容に応じた倫理的な配慮、および利益相反に関する記載が必要です。
・他者の著作物(音楽、写真、映像、等)を、許可なく使用しないでください。引用する場合は、引用対象著作物が,既に公表されている著作物であること、明瞭区別性(自身の著作物と引用対象著作物が,明瞭に区別されていること)、主従関係(自身の著作物が「主」であり,引用対象著作物が「従」であること)を確認した上で、「出所の明示」をしてください。
・本人の顔写真やビデオ、音声等の使用に関しては、本人の最善の利益を考慮し、可能な限り避けてください。どうしても発表に必要な場合は、本人や代諾者に文書で同意を得た上で、使用部位を最小限に抑え、目線を入れ、解像度をぼやかせる等の画像加工や音声加工などの手法により、個人が同定されるリスクを最大限回避してください。

(総会開催時の注意)
・講演や演題発表の内容を写真やビデオで撮影することは、個人情報の流出や発表者の知的所有権の確保といった問題から禁じられています。
・オンライン開催の場合、写真・ビデオ撮影が容易に可能であり、インターネットに流出するリスクが大きく、本人や代諾者に使用の許可を得ていても、子ども本人にとって不利益な事態を生じさせる可能性が高いことから、オンライン発表では原則として発表に際して、患者本人の画像や音声の使用は避けてください。

(用語について)
※代諾者について
 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(令和3年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第一号 以下、生命・医学系指針)によれば、代諾者とは「生存する研究対象者の意思及び利益を代弁できると考えられる者であって、当該研究対象者がインフォームド・コンセントを与える能力を欠くと客観的に判断される場合に、当該研究対象者の代わりに、研究者等又は既存試料・情報の提供のみを行なう者に対してインフォームド・コンセントを与えることができる者」をいいます。また生命・医学系指針のガイダンス(令和3年4月16日文部科学省・厚生労働省・経済産業省)における「代諾者等からインフォームド・コンセントを受ける手続等」によれば、代諾者等の選定方針として、①(研究対象者が未成年者である場合)親権者又は未成年後見人、②研究対象者の配偶者、父母、兄弟姉妹、子・孫、祖父母、同居の親族又はそれら近親者に準ずると考えられる者(未成年者を除く。)、③研究対象者の代理人(代理権を付与された任意後見人を含む。)に掲げる者の中から、代諾者等を選定することを基本とし、ただし、画一的に選定するのではなく、個々の研究対象者における状況、例えば、研究対象者とのパートナー関係や信頼関係等の精神的な共同関係のほか、場合によっては研究対象者に対する虐待の可能性等も考慮した上で、研究対象者の意思及び利益を代弁できると考えられる者が選定されることが望ましい。また、代諾者等からインフォームド・コンセントを受けたときは、当該代諾者と研究対象者との関係を示す記録を残すことも重要である、とされています。
 また薬剤等の治験における代諾者とは「被験者の親権を行う者、配偶者、後見人その他これに準じる者」(GCP省令)で、「その他これに準じるもの」とは「親権者、配偶者、後見人に準じる者で、両者の生活の実質や精神的共同関係から見て被験者の最善の利益を図りうる者」(薬務局長通知(平成9年3月27日薬発第430号)Ⅱ.1.(2)オ による)とされています。

※本人の同意について
 生命・医学系指針およびガイダンスによれば、未成年者を研究対象者とする場合のインフォームド・コンセントおよびインフォームド・アセントに関して、研究対象者の年齢等が、中学校等の過程を未修了であり、且つ16歳未満の未成年者の場合は、代諾者からのインフォームド・コンセントが必要であり、当該研究対象者からのインフォームド・アセントを得るように努める必要があるとされています。また、日米 EU 医薬品規制調和国際会議(ICH)において合意されている小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスに関する質疑応答集(Q&A)(平成13年6月22日厚生労働省医薬局審査管理課事務連絡)では、小児被験者からアセントを取得する年齢について、米国小児学会のガイドラインを参考に、おおむね7歳以上(文書によるアセントは、おおむね中学生以上)との目安を示しています。
 また、中学校等の課程を修了している又は16歳以上の未成年者の場合、健常な精神の発達及び精神的な健康が認められれば、侵襲を伴わない研究の場合、研究の実施に侵襲を伴わない旨や、研究の目的及び試料・情報の取扱いを含む研究の実施についての情報を公開し、当該研究が実施又は継続されることについて、研究対象者の親権者又は未成年後見人等が拒否できる機会を保障する旨を研究計画書に記載した上で、当該研究の実施について倫理審査委員会の意見を聴いた上で研究機関の長が許可したときは、代諾者ではなく当該研究対象者からインフォームド・コンセントを受けるものとする、とされています。
 以上を鑑みると、当総会では、代諾者の同意が得られない状況で未成年者の発表を行うことは難しいという現状がありますが、倫理委員会では継続して議論を行っていく予定です。

※個人情報について
 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(平成29年4月14日(令和2年10月一部改正 個人情報保護委員会 厚生労働省)では、「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日、その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができるものを含む。)、又は個人識別符号が含まれるものとされ、個人に関する情報は、氏名、性別、生年月日、顔画像等個人を識別する情報に限られず、個人の身体、財産、職種、肩書等の属性に関して、事実、判断、評価を表す全ての情報であり、評価情報、公刊物等によって公にされている情報や、映像、音声による情報も含まれ、暗号化等によって秘匿化されているか否かを問わない、とされています。

※オンライン開催について
 インターネット上で実施する総会のことを示します。総会を、現地とオンラインの両方を行うハイブリット開催の場合、オンラインで実施する発表に関しては、原則として発表に際して、患者本人の画像や音声の使用は避けてください。

【目次】
Ⅰ 症例検討における倫理的配慮について

Ⅱ 一般口演における倫理的配慮について

Ⅲ ポスター発表における倫理的配慮について

Ⅳ 特別講演、教育講演、シンポジウムなどにおける倫理的配慮について