2020.09.20 少年法「改正」に反対する声明

2020年9月20日

少年法「改正」に反対する声明

一般社団法人日本児童青年精神医学会 代表理事 松本英夫
同 子どもの人権と法に関する委員会 委員長 高岡 健

 私たちは、自由民主党政務調査会による「成年年齢に関する提言」(2015年9月17日)および法務省の「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の立ち上げに対し、2016年9月4日に「少年法適用年齢引き下げに反対する声明」を公表しました。その後、法務大臣は法制審議会に「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすること」等を諮問し、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会〔以下、「法制審部会」という〕は検討を開始しました。しかし、法制審部会では意見の一致に至らず、「今後の立法プロセスにおける検討に委ねる」とされました。
 一方、2020年7月30日に与党・少年法検討PTは18・19歳の者を少年法の適用対象とすることで合意しました。法制審部会もこれに倣って同年9月9日に「取りまとめ」を公表し、18・19歳の者について全件家裁送致を維持すると明記しました。以上は少年法の適用年齢引き下げが少なくとも現時点では断念されたことを意味するものであり、私たちを含む諸団体による反対運動が一定の成果を収めたといえるでしょう。
 しかし、与党・少年法検討PTによる合意も法制審部会による「取りまとめ」も、以下に示すとおり看過しえない問題点を含んでいます。
 1 原則逆送の範囲の拡大:原則逆送の範囲を短期1年以上の懲役、禁固に当たる罪、すなわち強盗や強制性交等などに広げると、その対象者は現在の30倍に上るという試算があり、その影響は小さくありません。しかし、家庭裁判所の調査によって明らかになるそれぞれの少年の特性や状況・犯罪内容と無関係に、罪名によって一括して原則逆送とすることには大きな問題があります。また、社会性を身につけなければならず、かつその基盤となる可塑性が高い時期における長期の受刑は、少年の人格形成、及びその後の人生に不可逆的な、取り返しのつかない負の影響を与える可能性があります。これは、再犯防止の観点からもむしろマイナスに働くことを意味します。
 2 ぐ犯の除外:ぐ犯は、弱い立場にある少年を、犯罪に至る前に保護する機能を持ち、少年法の理念を体現するものです。実際には女子少年に適用されることが多く、家出をし、犯罪に巻き込まれつつある状況から彼女たちを守っています。女子少年は、男子少年に比べて資質的・保護環境的に脆弱であることが統計的に分かっています。自ら犯罪を進めていく構えは乏しいのに、寄る辺なく受け身的に犯罪に巻き込まれている多くの女子少年を守ってきたぐ犯を除外することは、彼女たちを切り捨てることに他なりません。
 3 特則の廃止:少年法の不定期刑は、少年について,人格が発達途上で可塑性に富み教育による改善更生の効果がより期待できることから、教育的配慮に基づき導入されたものです。類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在である18歳及び19歳の者についても、不定期刑の適用をすべきです。ちなみに、現行少年法の不定期刑の上限は15年ですが、不定期刑の適用をしない場合、有期刑の上限は30年となります。長期受刑の弊害は,社会内で生活してきた期間が短い18歳及び19歳の者にとっては顕著に表れ、社会復帰を著しく困難にします。さらに、少年法の資格制限に関する特則は、少年時の犯罪については、その可塑性・教育可能性を考慮してできるだけ早期に制限を受けないものとし、再び社会生活を送るために環境を整えようとするものです。類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在である18歳及び19歳の者についても、少年法の資格制限に関する特則は適用されるべきです。
 4 推知報道禁止の適用除外:現行少年法第61条は、「当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」と定めています。公判請求後から推知報道を認めることには公共的価値はなく、スティグマを強化することによって少年の成長発達権を阻害する結果につながるだけです。また、公判の結果、再び家庭裁判所へ移送される場合がありうることをも勘案するなら、公判請求後も推知報道は禁止されるべきです。国民が意見を形成するために非行の内容と背景の報道は必要ですが、本人特定情報の報道は不要です。
 1~4において指摘した危惧は、不適切な環境で育った少年や発達上の困難を有する少年等、児童青年精神医学領域に深くかかわる少年を含め、非行に追い込まれたあらゆる少年にあてはまるものです。以上の理由から、私たちは少年法の「改正」に反対します。