2021.2.22「少年法等の一部を改正する法律案」に反対する声明

2021年2月22日

「少年法等の一部を改正する法律案」に反対する声明

一般社団法人日本児童青年精神医学会 代表理事 飯田 順三
同 子どもの人権と法に関する委員会 委員長 木村 一優

 令和2年10月、法制審議会は少年法改正に関する答申(諮問第103号に対する答申)を全会一致で承認しました。これを踏まえ法務省は今通常国会に「少年法等の一部を改正する法律案」(以下、少年法「改正」案といいます)を提出しようとしています。
 少年法「改正」案の骨子によると、「18歳及び19歳の者は、少年法上の「少年」とする。」とされ、また「犯罪の嫌疑がある場合、全件を家庭裁判所へ送致するものとする。」とされています。これらの点は、これまで私たちが公表してきた2016年9月4日の「少年法適用年齢引き下げに反対する声明」、および2020年9月20日の「少年法「改正」に反対する声明」における主張に沿うものです。
 しかしながら、原則逆送の範囲の拡大、ぐ犯の適用除外、不定期刑及び資格制限に関する特則を適用しないものとしていること、そして推知報道禁止の解除など、これまでの声明で私たちが指摘してきた問題点はなお解消されていません。
 加えて、上記骨子において「家庭裁判所の処分は,犯情を考慮して相当な範囲内で行う」とされた点、すなわち行為責任の上限を設定することを看過することはできません。これは、以下に記す通り今回の少年法「改正」案が内包する根本的な問題を示すものだと考えます。
 私たちは、児童精神医学の観点から、18、19歳の非行少年においても生育史上、虐待や不適切な養育などが広く認められ、また発達障害を有する者が少なくないことを指摘してきました。だからこそ、その処遇・教育は、これらの特性を十分に考慮したものでなければなりません。現在の少年院では、家庭裁判所によるアセスメントに基づき、資質特性や生育史への理解に沿った矯正教育が行われており、その効果は、再入所率が刑務所のそれと比べ低く抑えられているという事実に明らかに示されています。
 しかるに、その処分が「犯情を考慮して相当な範囲内」で行われるとすれば、少年の有する特性や生育史からの影響、つまり彼らの要保護性に応じた処遇ではなく、あくまで犯罪の行為責任のみに応じた処分が下され処遇が行われることになります。
 その結果として、たとえば軽微な窃盗を繰り返す少年を想定した場合、これまでは被害金額が少なくても要保護性が認められれば少年院で矯正教育を受けられたものが、被害金額が少なければ少年院送致はできないことになります。不処分として事実上放置されることにすらなり、要保護性に応じた矯正教育を受ける機会を失います。
 さらに、これまでは少年の改善が乏しい場合、少年院での各教育段階の期間が延長され、改善が認められなければ退院はできませんでした。しかし、少年院送致の際に犯罪の行為責任に応じた入院期間が決められることになれば、少年院での教育が充分に奏功していなくても、期間が終われば退院となります。これは、責任主義・応報主義の観点に立つものであり、少年法の保護主義・教育主義の理念に反します。
 今回の少年法「改正」案では、重大な事件を起こした少年に対する処遇には、ほぼ変化は生じません。一方、上記2つの例に示したように、比較的軽微な事件を起こした少年に対する処遇の変化は極めて大きなものです。

 非行少年それぞれの特性に応じた適切な処遇を行うためには、少年法の保護主義・教育主義の理念に基づき、原則逆送の範囲を拡大しないこと、ぐ犯を適用除外しないこと、不定期刑及び資格制限に関する特則を維持すること、推知報道禁止を維持することとともに、家裁の処分に行為責任の上限を設定しないことを求めます。