2023.11.12 子どもの性被害・性虐待に関する本学会の意見表明

2023年11月12日

子どもの性被害・性虐待に関する本学会の意見表明

一般社団法人日本児童青年精神医学会 代表理事 岡田 俊
同 子どもの人権と法に関する委員会 委員長 木村一優

【背景】
 子どもが育つ環境は、時として閉鎖的な場となり、そこで生じた加害・被害は、権威者と弱者の間で起き、抗えなさや容易に隠蔽される危険性をはらんでいる。最近、学校、保育施設、塾、スポーツクラブや芸能事務所等の企業、児童福祉施設等で、子どもが被害者となる性被害事件について報道が相次いでいる。
 これまで、家庭における性虐待を含む虐待行為に関する報告は認められるものの、家庭以外の場面で子どもを対象とした性虐待や性被害についての実態を調査した報告は少ない。また、日本児童青年精神医学会としても、実態を把握し、その後の対応についてこれまで明確に示したことはない。そのため、改めて当学会の考え方を整理したい。

【子どもに対する性被害についての学会としてのこれまでの対応】
 私たちは、児童青年期精神科医療ならびにその近接領域の実践を通じ、いかなる虐待行為や犯罪行為からもその被害に遭っている子どもを守り、支援する立場にある。そして、児童青年精神医学に携わる保健・医療・福祉・心理・教育・司法の専門家として、社会のあらゆる場面において、子どもの人権を守るため、子どもの人権が損なわれることがないよう、社会を注視し啓発を行う責務を負っている。
 子どもに対する性加害は、明らかな虐待行為あるいは犯罪行為であり、子どもの人権を著しく侵害する行為に他ならない。被害を受けた子どもは、性別の如何を問わず、精神面だけでなく生活全般において多大な影響を長期に渡り被り、苦悩と苦痛を抱え続ける者も多く、必要となる治療や支援も必然的に長期に及ぶこととなる。また、加害者として現れた子どもが、治療を通じかつては被害を受けていた事実が明らかになることも少なくない。治療についてはトラウマ臨床として、知見が蓄えられ徐々に治療法も確立されつつあるが、実際に専門的治療を提供できる医療機関は一部に留まっている。
 そういった中、社会的認知は十分であったとは言えないものの、これまでも、本学会では会員の一人ひとりが、昨今の報道までもなく地域社会のあらゆる場面において子どもに対する性加害が起きうること、起きていることを知っており、被害を受けた子どもたちに向き合い必要な治療や心理的支援を行ってきた。しかし、現状に鑑みれば、今なお不十分であったと思われ、本学会としてはより積極的な取り組みを行っていく必要があると考えている。

【性犯罪・児童虐待に関する法の整備および課題】
 性犯罪については、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(2023年7月13日から施行)「不同意性交等罪・不同意わいせつ罪(改正)」により、性交同意年齢が13歳未満から16歳未満へ引き上げられ、また、「16歳未満の者に対する面会要求等の罪(新設)」により、わいせつの目的で、威迫、偽計、利益供与等の不当な手段を用いて、面会を要求する行為や面会する行為が罪に問われることが明記されるなど、法的枠組みが整えられつつある。
 これにより、部分的とはいえ、いわゆるグルーミングに引き続いて行われる危険性の高かった子どもに対する性的接触や性的搾取を予防することにつながる法改正となった。一方、相手が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合に、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪が成立するとされており、13歳以上16歳未満の子どもが、5歳未満の年長者から性被害を被った際、同意しない意思の形成、表明、全うが困難な状態を適切に主張できない場合には罪が問えないことがある。また、16歳以上18歳未満の未成年者について明確な規定はない。
 次に、児童虐待防止法において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう)がその監護する児童に行う行為とされている。また、児童福祉法において、「被措置児童等虐待」とは、里親若しくはその同居人、児童養護施設などの施設等の長及びその職員等(「施設職員等」という。)が、委託され又は入所する児童(「被措置児童等」という。)に行う行為とされている。すなわち、保護者及び施設職員等以外のものが行う行為は「児童虐待」「被措置児童等虐待」として規定されていない。
 そのため、現行の児童虐待防止法及び児童福祉法において、保護者及び施設職員等以外の者による虐待については、児童虐待防止法及び児童福祉法が適用されることはなく、現に虐待を受けたと思われる子どもを発見した際に、虐待者が保護者及び施設職員等以外の者と思われる場合、国民は通告義務を負わず、通告先となる機関も明確に定まっていないのが実状である。
 周囲の気づきがあっても自身の被っている行為が性被害・性虐待であると認識できない子どもや、たとえ認識し相談するに至った子どもについても、その加害者が保護者及び施設職員等以外の者であった際には、現行の児童虐待防止法及び児童福祉法は適用できないといった課題が残ることとなる。
 虐待行為だけでなく、子どもが犯罪行為の被害者となっていると思われる際に、国民による通報が義務付けられるような法整備が必要である。

【提言】
 社会的養護の場では、児童福祉法の被措置児童等虐待防止対策の制度化により、性虐待や性被害(子ども同士も含む)が生じた際に、外部機関も介入し治療や支援を提供する構造が整備されてきているが、社会全体としては不十分である。性虐待は表面化しにくいという本質的特徴があり、しばしば関与者が被害を狭小化する傾向にある。そのような特徴を理解したうえで、国や自治体が中心となって、より実効性の高い法整備を含めた枠組み作りや支援体制を構築するよう要望する。本学会としては、子どもの性虐待や性被害に関する啓発や子どものケアについて、今後ともより積極的に関与し続ける所存である。