大阪維新の会大阪市会議員団への声明文 2012年5月11日提出
「大阪維新の会」大阪市会議員団が大阪市議会に提出する家庭教育支援条例(案)にたいして
当学会は、下記の声明を大阪市会議員団に送りました。
平成24年5月11日
大阪維新の会大阪市会議員団が提出を予定した条例案に関する声明
日本児童青年精神医学会
理事長 齊藤万比古
当学会は児童期および青年期の子どもの精神障害の病態を解明し、適切な治療・支援法を開発・普及させることを目指す医師、研究者、心理職者、教師などの専門家が参加する学術団体です。今回,大阪維新の会大阪市会議員団が提出を予定し,その後に白紙撤回された「家庭教育支援条例(案)」について以下のとおり見解を表明いたします。
「家庭教育支援条例(案)」には,全文にわたって発達障害をめぐる重大な誤解があります。特に,第15条の「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する大きな要因である」という記述、および第18条の「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できるものであり」という記述に問題があります。それらは発達障害を持つ当事者および家族に重大な不利益をもたらすのみならず、いわれなき社会的非難を浴びせる結果になることが強く懸念されるものです。この条例案は、発達障害に対する地道な臨床研究と脳科学的な病態解明により到達した『発達障害は生来的な脳機能発達の障害を病因とする』という世界的なコンセンサスを否定し、世界標準では完全に否定された発達障害心因論へと数十年時計を逆戻りさせるものであると言わざるをえません。かつては、発達障害の当事者とその両親は世間から「親の育て方が悪いから発達障害になる」、「子どもが甘やかされた結果だ」などと責められ続け、誤った責任を押し付けられたために多くの悲劇が引き起こされました。2005年に施行された「発達障害者支援法」は、発達障害に関する医学的研究の到達点である世界基準の定義に基づき、発達障害を生来の脳の機能的な問題が基盤にあると規定しています。この法律がこのような基盤に立って成立したことから、発達障害の当事者および家族は初めて希望を持って障害と取り組むことができるようになりました。大阪維新の会大阪市議会議員団が成立を目指した条例案は、このような発達障害研究と支援の取り組みがようやく到達することのできた水準を無視し、発達障害があたかも親の育て方によって生じるかのような大きな誤解へと逆戻りさせるものとなっています。このままでは、多くの発達障害児とその家族、関係者を困惑させる内容であると判断せざるをえません。
この条例案の議会への提出は今回は撤回されましたが,ここに存在する発達障害に対する誤解は根深いものがあります。今後はこのような誤解に基づく条例案を提出することのないよう大阪維新の会市議団に要望するとともに,同様の条例案あるいは法案が他の自治体の議会,あるいは国会に提出されることのないよう,子どもの心の育ちと癒しのために親と子の両者を支援することを目指した研究活動と実践活動に取り組む本学会は要望するものであります。
以上。