2007年5月30日 児童青年を対象とした向精神薬についての厚生労働省への要望

平素は医療行政ならびに健康・福祉行政にご尽力いただき感謝申し上げます。今後ともより一層の充実した厚生行政をご推進いただき、救いを求めている児童・青年にとって、これまで以上に生活しやすい社会となりますことを心より期待しております。
さて、日本児童青年精神医学会は、約50年の歴史を有し、18歳未満の児童・青年の精神科医療について中心的役割を果たしてきた専門家団体であると自負しております。約3000名の会員を要し、医師、臨床心理技術者、教員、精神保健福祉士、看護師、保健師、保育士などさまざまな職種が参加しております。とりわけ発達障害者支援法の対象となる、自閉症・アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥/多動性障害(以下、ADHD)等の当事者およびその家族に対する医療的支援については、当学会の中心的課題となっております。
精神科疾患の多くは、障害の原因を完全には解明したとは申せませんが、薬物療法につきましては多くの報告がなされ、その有効性が立証されてまいりました。また、海外では18歳未満の児童・青年の精神科疾患に対する承認も着々と行われているところです。
ひるがえってわが国の現状はどうかと申しますと、ほとんどの向精神薬が成人を対象として承認を受けているにすぎず、18歳未満の児童・青年に対しては適応外使用(オフラベルユース)、すなわち専ら医師の個人的責任の下で使用せざるを得ないという現状にございます。
これらの状況に鑑み、以下の二点にわたる危惧につきまして適切かつ早急な解決をお願いする次第です。

1 この分野の向精神薬が極めて少ない現状について
発達障害の行動上の問題に適用が認められていたチオリダジンが発売中止になりましたことから、児童青年精神科医療で使用する向精神薬としては、自閉症、精神遅滞におけるピモジドが唯一の18歳未満の児童・青年に対する保険適用薬となってしまいました。その結果,当該分野における診療で処方される薬物の大半が適応外使用であるという状況がますます深刻化しております。もちろん18歳未満の児童・青年への薬物療法における安全性について十分な検証が必要であることは当然ではありますが,同時に18歳未満の児童・青年に対する精神科治療においても、大人の薬物療法に準じた多様な向精神薬が欠かせないというのが現実であります。このような現状に対して,当該領域における各種向精神薬の臨床試験を製薬会社に積極的に求めていくなど,何らかの解決策を必要としているのではないかと存じます。

2 この分野の薬物の認可について、速やかな検討が必要な点について
現在治験中の薬物のうち、治験の結果から有効性と有害事象に関する適正な評価が行われたと認めたものについては、上記のように当該領域で保険適用薬が皆無と言ってよい現状に鑑み、使用基準を明確にした認可手続きを早急かつ優先的にお願いしたいと存じます。発売までに時間がかりすぎる場合、薬物の恩恵を受ける可能性のある18歳未満の児童・青年が、認可時点ではすでに対象年齢から外れてしまう恐れも出てまいります。
日本児童青年精神医学会では、現在のこうした状況を是正し、治療対象者が一日も早く適切な薬物療法を受けられるよう、18歳未満の児童・青年を対象とする向精神薬の治験や臨床試験の拡大と,それらの結果が得られた薬剤に対する早期適応承認を強く要望するものであります。
本件に関しまして、何卒格段のご配慮をお願い申し上げます。
以上

2007年5月30日
理事長 市川宏伸