2024.04.02 子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明


子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明

一般社団法人日本児童青年精神医学会 代表理事 岡田 俊
同 薬事委員会 委員長 根來秀樹

 反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS)療法は、変動磁場を用いて脳皮質に渦電流を誘導し、ニューロンを刺激することによって、低侵襲的に大脳皮質や皮質下の活動を修飾することができる技術であり、2017年9月に「薬物治療で十分な効果が認められない成人のうつ病患者」に対する治療法として承認されています。しかし、日本精神神経学会による反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(2023年9月改訂版)1)では、18歳未満の若年者にはrTMS療法を施行するべきではないことが明記されています。
 現在、本邦では、「経頭蓋磁気刺激療法に関する施設基準」注1)を満たさない医療機関において、「発達障害に有効」であるとして保険外診療が行われているとの報道があります2)
 rTMS療法は、成人期うつ病における有効性・安全性を確認された臨床試験に基づいて薬事承認をされたものです。頭皮痛・刺激痛、顔面の不快感、頸部痛・肩こり、頭痛のほか、重篤な副作用としてまれにけいれん発作が発現することもあり、決して副作用のない治療法ではありません。
 我々は、神経発達症(発達障害)や精神疾患がある18歳未満の子どもに対するrTMS療法の有効性を調べた海外の臨床試験を系統的に文献検索し内容を精査しました。その結果、現在のところ、子どもに対するrTMSの有効性と安全性の証左は不十分であるとの結論に至りました3)。そのため、保険外診療として子どもの神経発達症や精神疾患に対するrTMS療法を実施することは適切ではないとの見解を公表いたします。
 将来的にrTMS療法が子どもの神経発達症や精神疾患に対して有効である可能性を否定しているのではありません。rTMS療法の有効性や安全性は、適切に計画され、有効性や安全性が適切に評価でき、有害事象に対しても十分な対応が可能な研究機関/医療機関において臨床研究(介入研究)として検討するべきであり、それらを経ることなく保険外診療として子どもに実施することは非倫理的であるとともに危険性を伴うと考えます。

1. 本邦ではrTMS療法の対象は、既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても、期待される治療効果が認められない中等症以上の成人(18 歳以上)のうつ病に限定される。
2. これまでに報告された研究から、18歳未満の子どもを対象とした神経発達症や精神疾患に対するrTMS療法の有効性を示す証左は不十分である。
3. rTMS療法は決して副作用のない治療法ではなく、特に発達期にある子どもへの治療に関する安全性は検証されていない。
4. 18歳未満の子どもに対するrTMS療法の有効性と安全性は、十分な症例数を有する適切にデザインされ、かつ、適切に診断、有効性と安全性の評価、有害事象への対応が可能な研究・医療機関で実施されたランダム化比較試験注2)等の信頼性の高い介入試験によって評価し確立する必要がある。

以上



注1) 経頭蓋磁気刺激療法に関する施設基準は、(1) 精神科を標榜している病院であること。(2) うつ病の治療に関し、専門の知識及び少なくとも5年以上の経験を有し、本治療に関する所定の研修を修了している常勤の精神科の医師が1名以上勤務していること。(3) 認知療法・認知行動療法に関する研修を修了した専任の認知療法・認知行動療法に習熟した医師が1名以上勤務していること。(4) 次のいずれかの施設基準に係る届出を行っている病院であること。(イ)「A230-4」精神科リエゾンチーム加算(ロ)「A238-6」精神科救急搬送患者地域連携紹介加算(ハ)「A238-7」精神科救急搬送患者地域連携受入加算(ニ)「A249」精神科急性期医師配置加算(ホ)「A311」精神科救急入院料(ヘ)「A311-2」精神科急性期治療病棟入院料(ト)「A311-3」精神科救急・合併症入院料2」とされており、所定の届出を行うことになっています。
注2) 複数の治療法の効果を比べるときに、患者さんをくじ引きや乱数表など、ランダム化と呼ばれる手法を用いて、グループ分けを行う試験を示し、グループ分けに研究者の主観が入り込まないため、得られた結果は信頼性が高いとされています。

1) 日本精神神経学会(2023):“反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(改訂版)”.日本精神神経学会.2023年9月27日.
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/Guidelines_for_appropriate_use_of_rTMS_202309.pdf, (参照2024年4月2日)
2) 共同通信(2023):“発達障害外来、学会の指針逸脱 クリニックが高額治療”.共同通信.2023年12月16日.
https://www.47news.jp/10273925.html,(参照2024年4月2日)
3) Tsujii, Okazaki, Kihara, et al. (2024): “Is there evidence for the use of noninvasive brain stimulation techniques for children and adolescents with mental illness?”. Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports, 3(2). https://doi.org/10.1002/pcn5.190