2016.07.19内閣府による社会医療法人友愛会豊見城中央病院の国家戦略特別区域高度医療提供事業の認定に関する声明

内閣府による社会医療法人友愛会豊見城中央病院の国家戦略特別区域高度医療提供事業の認定に関する声明

2016年(平成28年)7月19日
一般社団法人日本児童青年精神医学会
代表理事 松本英夫

1. はじめに
2016年(平成28年)3月、医療法人へいあん平安病院理事長である平安明氏より、社会医療法人友愛会豊見城中央病院が国家戦略特別区域高度医療提供事業として国の承認を受け、推進する事業の一つに軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術が計画されていることについて、この手術が倫理的に問題の大きな医療行為ではないかとする疑義とともに、日本児童青年精神医学会(以下、当学会)の当該手術への見解について問い合わせをいただいた。
当学会は、2000年(平成12年)「小児の脳神経」誌の下地武義氏らの「臨床症状を伴う三角頭蓋」を発端に、発達の障害を有する子どもに対しての軽度三角頭蓋の外科手術について倫理的側面から検討を加え、2005年(平成17年)12月に「軽度三角頭蓋の外科手術に関する見解」を表明した。また、2006年(平成18年)10月19日に当学会学術総会において「倫理検討委員会シンポジウム」として「臨床研究の倫理-発達障害と三角頭蓋を巡って」を、また2014年(平成26年)10月12日の当学会学術総会にも「倫理委員会パネルディスカッション」として「発達の障害を有する子どもへの軽度三角頭蓋の外科手術と臨床研究の倫理」を開催し、その倫理的問題点を繰り返し指摘してきた。
平安氏の問合せに対して調査を行い、国家戦略特別区域高度医療提供事業として推進されようとしている軽度三角頭蓋の頭蓋形成手術は倫理的問題が大きいと判断せざるを得ないことから、ここに声明を発表し、本認定の撤回を求める。

2. 社会医療法人友愛会豊見城中央病院の国家戦略特別区域高度医療提供事業認定に至る経緯
内閣府地方創生推進事務局の推進する国家戦略特別区域事業において、2016年(平成28年)3月24日に行われた「東京圏(第10回)・関西圏(第8回)・新潟市(第5回)・養父市(第5回)・福岡市・北九州市(第6回)・沖縄県(第4回)・愛知県(第3回)国家戦略特別区域会議 合同会議」における、「議事要旨」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/160324goudoukuikikaigi/gijiyoushi.pdf)および資料6沖縄県提出資料(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/160324goudoukuikikaigi/shiryou6.pdf)において、当該軽度三角頭蓋手術は「多動、言語発達障害、運動遅滞などの多彩な症状を小児期に手術することによって改善する、世界でも施行例が少ない治療」(議事要旨p14)であり、「前頭骨の縫合は、生後約4ヶ月までに開き、2歳頃には閉じる。その縫合が先天的に閉じてしまうと、頭蓋の拡大が制限され、脳の成長が阻害されるため、言語発達の遅れ、多動、自閉傾向、自傷行為などの症状が現れる。それらを改善するため、小児の早い段階で前頭骨を開く治療法」(沖縄県提出資料 3p)として、内閣府は「異議なし」(議事要旨p30)で、社会医療法人友愛会豊見城中央病院の国家戦略特別区域高度医療提供事業を認定した。

3. 下地氏らの「軽度三角頭蓋に対する外科手術」に関する当学会の見解


当学会は先述の通り、発達の障害を有する子どもに対しての軽度三角頭蓋の外科手術について倫理的側面から検討を加え、2005年(平成17年)12月に「軽度三角頭蓋の外科手術に関する見解」(https://child-adolesc.jp/proposal/2005-12-01/)を表明し、その後もその倫理的問題点を繰り返し指摘してきた。昨年、2015年(平成27年)にも”Child’s Nervous System”に掲載された下地武義氏らの論文”Analysis of pre- and post-operative symptoms of patients with mild trigonocephaly using several developmental and psychological tests”(Shimoji T et al. (2015): Childs Nerv Syst 31:433-40)にはいくつかの問題点があり、それを同誌上で伊地知信二氏らに指摘されている(Ijichi S et al (2015): Ethical fallacies, tricky ambiguities, and the misinterpretation of the outcomes in the cranioplasty for mild trigonocephaly. Childs Nerv Syst 31:1009-12)。問題点として取り上げられたのは、心理発達尺度として広汎性発達障害評定尺度(PARS)を使用しながらも、自閉症の治療ではなく、発達の遅れと自閉症類似の症状を呈する軽度三角頭蓋の治療であると主張している点(Shimoji T (2015): Reply to Dr. Ijichi’s group letter. Childs Nerv Syst 31:1013-1015)およびヘルシンキ宣言を無視している点である。
ヘルシンキ宣言(2003)21条では、「人間を対象とする医学研究は、科学的文献の十分な知識、その他関連する情報源および適切な研究室での実験ならびに必要に応じた動物実験に基づき、一般に認知された科学的諸原則に従わなければならない」と謳われている。下地氏らは軽度三角頭蓋の手術により、「発達の遅れや自閉症類似症状」が改善したと主張しているが、そもそも軽度三角頭蓋と「発達の遅れと自閉症類似の症状」の関連について、軽度三角頭蓋の自然経過を含めた疫学調査が行われておらず、科学的医学的証明はなされていない。こうした実験的治療が一般臨床治療でのインフォームドコンセントの下で実施されているが、これはヘルシンキ宣言に反する非倫理的な医療行為であり、容認できない。

4. 内閣府による社会医療法人友愛会豊見城中央病院の国家戦略特別区域高度医療提供事業認定に関する見解
下地氏らの発達障害を有する子どもの「軽度三角頭蓋に対する外科手術」は、ヘルシンキ宣言に反するものであり、当学会は内閣府に対し、発達の障害を有する子どもに対する「軽度三角頭蓋に対する外科手術」にかかる社会医療法人友愛会豊見城中央病院の国家戦略特別区域高度医療提供事業認定の取り消しを求める。

以上