会長挨拶

第59回日本児童青年精神医学会総会

―こころの発達を支える 素質と環境との相互作用の中で―

 この度,第59回日本児童青年精神医学会総会を2018年10月11日(木)~13日(土)に東京大学本郷キャンパスにて開催することになりました。副会長兼事務局長を木村一優(医療法人社団新新会 多摩あおば病院),顧問を笠井清登(東京大学医学部附属病院 精神神経科)が担当いたします。
 本総会は,「こころの発達を支える」をテーマといたしました。発達をしっかりと支えようとすると,発達の理解を深めることが求められます。その際に,素質と環境との相互作用の中で発達が進んでいくとの観点が重要と考えて,それをサブタイトルに取り入れました。こころの働きには脳や身体の状態も生活のありようも関わっていて多軸的な理解が必要ですが,発達という軸が加わるといっそう複雑になります。しかも卵が先か鶏が先か分からないように絡み合っていくと,なおさらです。
 かつては,知的な遅れを伴ういわゆるカナー型の自閉症をめぐって母親の育て方が原因であるという誤った説を否定するため,養育とそのもたらす影響の検討にあまり焦点が当てられず,発達障害と愛着障害が対極であるかのように捉えられていたと思います。しかし,様々な知見が蓄積される中で,発達障害であることが育てにくさに通じたり愛着の問題のリスクを高めたりすると認識されるようになってきています。臨床場面で出会う実例では,絡み合いを容易にほぐせないものですが,より良く支えるためにも検討を深められたらと思っております。
 発達を考えるにあたって,進化の観点から検討を加えることも興味深いかもしれないと考えて,今回は,進化心理学を専門とする長谷川寿一先生(東京大学大学院 総合文化研究科)に特別講演をお願いいたしました。チックや強迫についてご指導をいただいたJames F Leckman先生(Yale Child Study Center)にも特別講演をしていただこうと思いますが,発達や進化の観点から強迫などについても論じていただけるかもしれません。
 総会の企画としては,オーソドックスな構成になっており,発達を軸にして会員の皆様と共に検討を進めていけたらと思っておりますが,しいて特色を上げるとしたら,国際交流が進みやすいようにと心がけたということでしょうか。Leckman 先生においでいただくだけでなく,英語でのセッションを設定して,国内外の演者が率直に交流していただけるようにしたいと思っております。英語セッションの詳細は決まり次第,改めてご案内いたします。
 本総会のもう一つの特色は,会場にあるとも言えます。都内での開催には会場の確保が著しく困難であり,主として経済的な問題を切り抜けるために大学の施設を利用することを思いついたのですが,雰囲気としては悪くないと勝手に思っております。ただし,一つの建物にすべての会場をおさめきれずに,伊藤国際学術センターと安田講堂を中心としながらもいくつかの建物にわたっています。そのため参加者の皆様にはご不便をおかけいたしますが,東大構内の散策の機会と思っていただいて移動を楽しんでいただけましたら幸いです。ポスターのように色づいた銀杏にはまだ間がありますが,都心とは思えない緑の多いキャンパスには心いやされる面があるのではないかと思います。
 多くの皆様と爽やかな10月にお会いできることを楽しみにしております。

(第59回日本児童青年精神医学会総会会長 金生由紀子)