会長挨拶

第62回日本児童青年精神医学会総会
―困難さを抱え、強みを活かす―

 第62回日本児童青年精神医学会総会は、2021年11月11日(木)~13日(土)、長崎ブリックホール/長崎新聞文化ホールで開催する予定でしたが、新型コロナウイルス蔓延の影響で、同年11月13日(土)ライブ配信、11月14日(日)~12月11日(土)オンデマンド配信という形式でWEB開催となりました。豊かな観光資源のある長崎の地で、皆様にお会いできるようになればと願っておりましたが、とても残念に思っております。

 長崎県では、2003年、2004年、2014年と重大な少年事件が起り、詳細な振り返りからその背景として子どもたちの生来の傾向(神経発達症など)と、家庭や学校、地域社会などの環境とのミスマッチが生じていたことがわかりました。そのために子どもたちの生来の特性を人生の早期から理解し、その後の愛着形成の障害やトラウマ関連症状の重篤化を防ぐために、多機関で子どもたちに寄り添い、継続的な支援を行うことが必要と考えられました。本総会でもこのような発達・愛着・トラウマの問題と地域での連携・継続的な支援について取り上げていければと考えております。
 今回の総会のテーマは「困難さを抱え、強みを活かす」です。私たちが出会うすべての子どもたちは、困難さと強みを併せ持っているものと思います。たとえば神経発達症を持つ子どもは、社会的コミュニケーションの障害、限局性・反復性、不注意、多動性・衝動性など様々な「困難さ」を有していますが、その反面、独特の発想力、好きなことに没頭する力、知的好奇心、活動性の高さ、アイディアの豊富さなどの「強み」もみられる場合があります。もちろんすべての子どもが他児より優れている点を持っているわけではありません。しかし「成長していこうとする力」、「ポジティブな方向に進んでいこうとする力」はすべての子どもに共通するものと思います。このような子どもに元々備わっている力に肯定的な視線を向け、育んでいくことを当診療部の目標としており、本総会でもそのようなテーマをできるだけ取り入れていきたいと考えております。

 現在、新型コロナウイルスによる災禍により、世界中の人々が先の見えない不安や閉塞感を感じているものと思います。このような状況で、子どものうつや不安に関連する症状や児童虐待、ゲーム依存症などの行動嗜癖が増加することが懸念されています。今回の学会総会では、このような現代の子どもの心の問題点に関しても、できるだけ取り組んでいきたいと考えております。
 今回のポスターは、神経発達症当事者の方に描いていただきましたが、世界新三大夜景に数えられる長崎の夜景に「明けない夜はない」というメッセージが込められています。できるだけ多くの方にご参加いただき、ご一緒に学んでいける機会となれば幸いに存じます。

第62回日本児童青年精神医学会総会会長 今村 明 
(長崎大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部)