会長挨拶

山下 洋 九州大学病院 子どものこころの診療部 特任准教授

 変化が激しく先行きの見えにくいVUCAの時代にあって、子どもたちを取り巻く環境は、家庭・学校・地域・医療のあらゆる場面で複雑さを増しています。2026年10月1日(木)~3日(土)、福岡市にて開催する第67回日本児童青年精神医学会総会の会長を拝命しております、山下 洋です。

 本総会は「子どもの声を聴く―共に創るレジリエンスのコミュニティ(Children’s Voices and the Co-creation of Resilient Communities)」をテーマに掲げました。レジリエンスは個人の“強さ”と考えられがちですが、Mastenが示したように、それは特別な資質ではなく、関係性や生活の基盤など日常の営みから生まれる“ordinary magic”でもあります。Mastenは近年、パンデミックの経験を経て、家族・学校・地域・制度といった複数のシステムが同時に創造し合うmultisystemの営みとして捉える視点を示しました。本総会に参加される皆さまと共に、生物・心理・社会の多層的な視点から新たな知見を発信し、また症例検討など実践につながる議論の場を提供することで、レジリエンスのコミュニティーが広がることを願っております。

 本学会は児童青年精神医学領域における国内最大の学術集会であり、医療を中心に教育・福祉・行政・司法など多領域の専門職が集います。ポストコロナ社会で子どものメンタルヘルスの課題が重層化するなか、児童青年精神医学の専門性はいっそう求められています。本総会では、その専門性を起点に、多職種の横のつながりと同時に、周産期から成人までライフステージを貫く縦のつながり、切れ目のないトランジションへの児童精神医学が寄与するところを提示し共有する機会となれば思います。

 今回のテーマには神経発達特性、虐待・トラウマ、不安や抑うつなど、子どもと家族の多様な背景に向き合ううえで、診断や治療の進展や制度・仕組みのアップデートを、個々の理解と支援の質の向上へとつなげ、子どもが二つとないストーリーを紡いでいけるよう伴走するアドボカシー(権利擁護)を確かなものにするという思いもこめました。前回大会長からの「私たち児童精神領域に携わる者は、狭い世界を生きているかもしれないけれど、子どもたちの将来をずっと考えている。この信念を常に忘れないで行こう。」という温かな言葉のバトンを今回のポスターに描かれた子どもたちとともに、見上げる広い空へとつないでいきたいと思います。

 本大会ポスターは福岡出身の画家・似顔絵師、奥村門土さんの作品で、音楽家ボギーさんを中心に家族で表現活動を続ける「ボギー家族」は、福岡の多様性と創造性と共に「すべての子どもが夢を描けるまち」という福岡市のイメージにもつながります。豊富な食や観光のスポットに加え、人の距離の近さと前向きに動く街の熱量も福岡の魅力です。秋はイベントも多い時期ですので、宿泊はお早めにご検討ください。多くの皆さまと福岡の地でお会いできますことを心より楽しみにしております。