第58回日本児童青年精神医学会総会
―普遍性と個別性のバランス―
この度、第58回日本児童青年精神医学会総会を平成29年10月5日(木)~7日(土)に、奈良の春日野国際フォーラムと東大寺総合文化センターにて開催することになりました。副会長を岩坂英巳(信貴山病院ハートランドしぎさん子どもと大人の発達センター センター長)、顧問を岸本年史(奈良県立医科大学精神医学講座教授)、事務局長を太田豊作(奈良県立医科大学精神医学講座助教)で勤めさせていただきます。また学会担当理事には田中究先生と野邑健二先生になっていただきます。
本総会のテーマは「普遍性と個別性のバランス」です。本来、本学会は個別の症例を丁寧に診ることを基本とし、そこから得られるものを会員が共有しようという姿勢があります。その重要性を認識した上で、児童精神医学も科学的な知見をおろそかにすべきではありません。特に近年、遺伝子研究、脳画像研究、脳生理学的研究を含む脳神経科学が進歩しており、そこから得られる知見は臨床においても重要なエビデンスとなるものも多数あります。私たちは目の前にいる子どもを診るとき、その子の精神症状やさまざまな能力とともに、生きてきた歴史や母子関係を中心とする家庭環境や学校などでの状況を知り、個別性を把握しようとします。同時にDSM診断基準に合わせた診断や科学的普遍性に基づく治療方法も検討します。個別性のみに焦点を当てると独りよがりの治療になる可能性があり、科学的普遍性だけを頼りにすると、その子の本質を見逃すかもしれません。私たちは常に科学的普遍性と個別性の両方を考慮し、そのバランスをとりながら治療することになります。そのことがまさに近年提唱されている発達精神病理学の考え方でもあります。
そこで上記のテーマのもとで最新の科学的研究の話題と個別性を考える上での重要な視点ついての話題をバランスよく組み込みました。特別講演では映画監督の河瀬直美氏に彼女の人生経験から得られた家族、母子を含めた人と人の関係性についてお話いただき、池谷裕二先生(東京大学大学院薬学系研究科教授)には脳の発達についてお話いただきます。また米国の神経発達症の脳波研究の第一人者であるSandra K Loo先生(カリフォルニア大学ロサンゼルス校精神行動科学准教授)にも講演してもらいます。
また本学会は学際的であり多職種の人が集う学会です。医師だけではなく心理職、看護職、福祉職、教育職などの方にも配慮した学会にするつもりです。そのための一つとして臨床心理士の更新のためのポイントを取得できるようにする予定です。
その他にも教育講演、シンポジウム、先達に聞く、ワークショップ、委員会セミナー、症例検討など多彩なプログラムを企画しています。プログラムの詳細はホームページで随時公開しますので御参照下さい。
学会会場は鹿がたわむれる奈良公園の中にあり、ゆったりした時間が流れています。学会場で熱い議論を交わし、学会場を一歩出て奈良公園の中を散策し、天平の時代の香りが漂う非日常を味わっていただきたいと思います。言うまでもなく古寺、仏像が溢れています。修学旅行のとき以来初めてという方も多いと思いますが、この年になって初めてその良さも分かるかもしれません。是非奈良の地を満喫していただきたいと思います。
明日からの診療に役に立つ学会であると同時に学問的に深みのある学会にしたいと思います。
美しい秋の10月に古都奈良で皆さんとお会いできるのを心待ちにしております。よろしくお願い致します。
(第58回日本児童青年精神医学会総会会長 飯田順三)