2016.08.08第57回日本児童青年精神医学会総会 教育セッション <当事者との対話>「東田直樹氏+山登敬之先生」について

2016年8月8日

会員の皆さま
第57回総会へ御参加予定の皆さま
一般社団法人日本児童青年精神医学会
代表理事 松本英夫

第57回日本児童青年精神医学会総会 教育セッション <当事者との対話>
「東田直樹氏+山登敬之先生」について

 平素より本学会の運営にご協力を賜りましてありがとうございます。
 第57回総会につきましては、青木省三会長、村上伸治事務局長をはじめ、川崎医科大学精神科学教室の先生方には鋭意ご準備をいただいているところです。学会誌57巻1号には、青木会長による「第57回日本児童青年精神医学会総会開催に寄せて」という一文が綴り込まれ、また総会ホームページも開設されています。そして、それらには「東田直樹(発達障害)+山登敬之(東京えびすさまクリニック)」による教育セッションが行われる等と予告されています。

 本年4月17日の理事会において、東田直樹氏のコミュニケーションについてFacilitated Communication(FC)であるかどうかという議論があること、もしFCであるとするならば、本人の意思表出といえるか、もしそこに懸念があるとすれば、当事者との対話として扱うことが妥当であるのかどうか、という議論が生じました。その後、総会事務局では、国内外の文献、東田氏と接した会員のご意見、同様のケース報告があるかなど、幅広く検索していただきました。
 本年6月19日の理事会では、総会事務局からは、東田氏が用いている現状のコミュニケーション方法はFCではなく、予定通り「東田直樹氏+山登敬之先生」のセッションを実施したいとの意見が表明されました。その後、討議が行われ、意見の一致を見なかったものの中止の意見のほうが多かったため、総会事務局に対し中止の方向での再検討を要請しました。なお、中止が望ましいとする主な理由は、以下のとおりでした。東田氏のコミュニケーション方法について、FCでないことを確信しうる科学的根拠がない。FCの有効性を示すエビデンスはほとんどなく、その有効性を否定するエビデンスが多く報告されている。もし、FCであるならば、それは本セッションの趣旨である<当事者との対話>ではなくなる可能性がある。FCであるか否かという視点でセッションを聴くことは、当事者の体験に耳を傾けることにはならず、総会後にそのような議論が生じることが当事者を傷つけることにならないかとの懸念がある等です。ただし、当日は青木会長が欠席されていたため、村上事務局長がいったん持ち帰ることになりました。

 その後、青木会長からは、山登先生ほかの会員が「目の前で仔細に観察した上で」FCではないと判断した、疑義があっても「自由闊達な議論の場を保証することは総会の重要な役割」という理由により、予定通り本セッションを実施したく、理事会での再検討を求める旨、意見の表明がありました。
 そこで理事会でさらに検討を加えたところ、東田氏の著作等からも彼のコミュニケーション方法がFCを経ていること、FCの主唱者であるDouglas P. Biklen氏と比較的最近まで少なくとも3回の講演会を行っていることが明らかになりました。一方、東田氏の現在のコミュニケーション方法がFCであるか否かは明確とはいえませんが、それを判断することがセッションの目的ではありません。にもかかわらず、総会でこのセッションを実施するならば、FCの有効性について学会が何らかの見解を示したと受け取られることにつながり、中立性を欠くのではないかという懸念を払拭するには至りませんでした。そのため、承認には至らず、上記の見解を伝え、総会のプログラム委員会での再検討をお願いしました。
 プログラム委員会での議論は、賛否相半ばしたとのことですが、総会事務局の最終的な意向としては、予定通り実施したいとのことでした。この時点で、代表理事は常務理事を介して、プログラム委員会内の議論でも提案されていた「総会プログラム外での実施」(その場合でも総会と同一会場・同一時間帯での実施を認める)という妥協案を青木会長と総会事務局に対して提示しましたが、会長と総会事務局の意向は、あくまで「予定通りの実施」ということでした。

 そのため、代表理事は常務理事らとともに、本セッションを実施するべきか否か、いずれかの選択をした場合に生じる様々な面での影響を、国内外の精神科医・研究者からも意見を聞きつつ再検討を行いました。その結果、現在の筆談やポインティングを用いた東田氏のコミュニケーション方法に関する実証的研究が皆無であるがゆえに、これらの方法によるauthorshipが東田氏自身にあるのか否か、また倫理的問題は生じないのかといった論点について、現時点では科学的結論を導くことが困難であると考えざるをえませんでした。
 科学的根拠を欠いたままセッションの実行あるいは中止についての判断を理事会が行うならば、それは学術的議論以外の理由で学会が二分される結果にもつながりかねません。あくまで総会事務局が「予定通りの実施」を強く要望している以上、理事会としては、学会基本理念に記された「会員は、学会を民主的に運営し、本理念等学会の定める規定を侵害しない限り全ての会員が完全な自由の下で活動できる条件を整備すると共に、相互に研鑽と点検を行う責務を負う。」という原点に立ち返ったうえで、総会事務局の最終的意向を汲むことが妥当であると判断し、持ち回り理事会において、この方針について了解を得ました。

 このたびの議論は、当事者である東田直樹氏には、まったく責任のないことはいうまでもありません。また、東田氏の著作、あるいはその著作から学ぶ、あるいは、感銘を受けた読者の皆さまを否定するものではありません。あくまでも学術団体として、本セッションの実施を認めることが妥当か否か、科学的検証を経ていることが必須であるか否かという議論であるとご承知くださればと存じます。
 末筆になりましたが、本セッションも含め、本総会が会員の皆さまに実り多いものとなることを願っております。とりわけ、本セッションに参加される会員・非会員の皆さまにおかれましては、「見れば分かる」といった科学的根拠に乏しい視点で参加されるのではなく、自由な討論のためには科学的・倫理的プロセスが必要であるという原則を忘れず、今後の学術的検証に役立てていただければ幸いです。

以上